結婚するまで一人暮らし同士だったわたしたちは、
木のタンスを持ってなくて、それぞれ、押し入れ収納のような
プラスチックケースに衣類を入れていたんだけど、
ふたりで生活するようになっても、ものすごく貧乏で、
モルタルの薄い壁の、3万くらいの家賃のアパートに住んでてさ。
ふたりで一生懸命働いて、結婚式のお金を貯めようとしたんだけど、
わたしがひどいアトピーになったために、
無理して、
8万の家賃のテラスハウスみたいなのに引っ越して、
それから、結納ってことで一度、田舎に帰ったら、
夫の家から結納金50万いただいたんで、
わたしの実家の取引先の、大阪の問屋さんにふたりで行って、
ダイニングテーブルセットと、タンスと、クローゼットを買ったんだった。
やあ、今どき結婚するったって、
備え付けの家具つきの家に住むのだろうから、
婚礼家具なんて買わないんでしょうけど。
ふたりの新居に、艶艶と光る、ちゃんとした家具が揃ったときの誇らしさを
よく覚えている。
○
あれから15年くらいになるのかな。
箪笥の側面の板が緩んで来たのをだましだまし数年使っていたのが、
ついに外れてしまった。
丈夫な木製なので、修理したいと思って調べていたのだが、
けっこう値が張るのがわかった。
住宅環境が悪いので、裏面にはカビが生えてて、
ああ、思い切って処分することに決めたのだ。
粗大ゴミの連絡をしたら翌日取りに来てくれることになって、
すぐに、代わりのタンスを買いに行った。
車で持って帰れることを条件にしたので、
今度のは、また、プラスチックのタンスである。
でも、それなりに重かった。
中身を移し替えて、婚礼箪笥をゴミ収集場所に運んだ。
めちゃくちゃ重たかった。
天と、夫も手伝ってくれた。
それなりにいい、どっしりした、木の箪笥だったんだよ。
赤ちゃんだった天が、箪笥につかまり立ちしてる映像が頭に浮かんで、
重たい箪笥を捨てるのが、つらかった。
愛着して、とっても気に入っていたのだと、
失うときに気がつく。