今日から天が林間学校に行くと言うことは、5年生になってからずっとわかっていたこと。「準備しなさいよ」と何度か声かけしていたものの、何の準備もしないままに前日を迎える。
まあわたしとしても、前日の午前中で準備すれば何とかなるだろう、と、思っていたのだった。月は大親友りろちゃんのところにお泊まりに行ってるし、半日は、天の準備を手助けできるようにスケジュールを空けておいた。
しかし、その目論みは見事に外れる。昨日の朝、天の自転車が盗まれていることに気づいたのだ。
自転車の鍵をかけておきなさい、といつも天に言うのに、100回言っても、かけていたことがない。昨晩乗った後にも鍵してなかったというので、まあ、自業自得である。
しかし、なんといっても<子どもの自転車を盗む>という罪には腹が立つ。子どもにとって、自分の自転車って、分身みたいなものじゃない。どうして、<子どもの>自転車を盗むのよ。
炎天下の中、犯人を呪って毒づきながら、天と、天の親友のムラくんも一緒になって、2時間ほど探しまわる。大汗かいて走り回るが見つからない。まあああ、無理かもね。残念だね。腹が立つよね。かなしいよね。だけど、一緒に探してくれてありがとう。
ムラくんにお礼を言って、失意のどん底の天とふたりで昼ごはん。
「まま、ごめんね。」
「いいよ。かなしくてこまってるのは天だもんね。
ムラくんがいっしょに探してくれてよかったね。」
なんて慰めているときに一本の電話。
「今朝から、ウチの前に自転車が止めてあって。
電話番号が書いてあったので電話しました。」
「うわわわわ!うちのです。うちの子の自転車です。
朝からずうううと探しまわって見つからなくて、
今、帰ってきたところなんです!!」
「そうでしたか。
この子は、きっと困ってるだろうなあ、と思って電話しました。」
「そう、すごく、困ってました。うれしいです。ありがとうございます!」
住所を確認して、受け取りに行く。
親切そうな声のとおりの、親切そうな方であった。
天と並んで自転車こいで帰宅して、また出かけて午後の用事をすませて、さあ、夕刻。
夜ごはんの準備をしながら、林間学校の準備をしておくように天に言う。30分後、パンツに名前を書いただけの天。その後約1時間して靴下にズボンにTシャツの数が揃った。
夕食後、できる限り、天主体で準備をさせる。とてつもなく時間がかかるが、月もいないことだし、まあ、かかりきりで見守る。10時半には終わったんだったっけ?
準備を進めるうちにどんどんどんどん不安になっちゃった天なのだった。お布団に入って眠ろうとしたときには、堰が切れたように泣き出した。
不安の中身をできるだけ聞いて、励まして、眠らせた。
なんだか、とても、おかあさんになった実感のある一日だった。
自転車は見つかったし、準備は終わったし、天は大きくたくましくなったし、もう、林間学校にも安心して行ける。
おっけ〜、おっけ〜、だいじょうぶ。
○
今朝、ぴかぴかの夏空の下、天は元気に出かけて行った。
「まま。ぼくのいないあいだに、おごちそう食べないでね。」
「そう、どんなおごちそう食べちゃダメなの?」
「えっとね。イカとか。」
「うん、わかった、天がいないときに、イカは食べないよ。」
「無事に帰っておいでね。」と、思い切り、手を振って見送る。