昨晩のこと。
天が月にむかってものすごく怒って、どかすかと布団やマクラを投げつけて、月が布団の中で丸まってそれに耐えている、という内容の、きょうだい喧嘩が起こった。まあ、あまり危険はなさそうだったので放っておいて、やや、治まってから、天に声をかけた。
「ねえ。天ちゃん。どうしたの?」
「イヤ!ママは僕が悪いって言うから言わない!」
怒りで身体をかちかちに固めた天が言う。
「もしかしたら、月が勝手にお布団を敷いちゃったの?」
「そう…。」
「そりゃあ、天がお布団なかなか敷かないから、月が眠たくなって待ちきれなくなっちゃったんでしょ。」
「ほら!ママはやっぱり僕を怒った!」
「怒ってないよ。天はお布団敷かないつもりはなかったのに、勝手に敷かれちゃって、悔しかったんでしょ。」
「うん。だって、だって、だって、
あれは、ぼくのお仕事ぅお、うおっうっえっえっ。」
「そっか、そうだね。そうだよね。毎日、天はしっかりお仕事してくれてるもんね。」
○
『12歳で100万円ためました!』という本を読んで以来、天や月はウチでお仕事をしている。たとえば、朝のコーヒー作りは月のお仕事で、お風呂洗いとお布団敷きは天のお仕事だ。
お仕事として割り当てられると、責任と誇りが持てるようで、なおかつ、自分の仕事をなにかの事情で取り上げられたときには、ふたりともすごく怒るのだ。
○
「悔しかったんだね。気持ちは分かるよ。天の気持ちはよくわかるよ。
ママは天や月がお仕事してくれて、いつもとても助かってるんだよ。それでね、今日も、天は残りのお布団は敷いたでしょ。今日のお布団は月も敷いた。だけど、天も敷いた。それでいいよ。
ただ、月に暴力を奮ったのは天が悪かった。天は、お風呂から出たあとでも、ずうとテレビを見てたでしょ。月は眠たくて待ちきれなかったんだよ。月の気持ちもわかるでしょ。」
「うん。うん。」とわたしの腕の中で丸まる天ちゃん。
○
わたしが子どもの頃、きょうだい喧嘩をすると、父から、ものすごく怒られた。どちらの言い分も言い訳もウンもスンもなくバコンバコンと叩かれて、徹底的に頭ごなしに叱られた。母からは、長女なのに思いやりが足りない、などと冷たく決めつけられた。
やがて天や月のおかあさんになった今、腕の中で丸まる天の身体が、安心して落ち着いて柔らかくなるのを感じるとき、ちいさくってさみしかったあのときのわたしの気持ちごと包んで柔らかくできるように感じてる。
なにもかもひっくるめて大好きな天と月のおかあさんになれて、こんなにくっついて暮らせて、ああ、いろいろ悩んだけれど、天や月に向き合ってぶつかって受け止めて、思う存分に子育てするのがわたしが選んだお仕事なんだな。わたしには、これでよかったんだな、って、今になって、思えるようになったよ。