天と月と同じ通学班のはなちゃんのおかあさんが、一昨日、急な重い病気で入院してしまった。おかあさんが入院するなんてたいへんだ。
天も月も、はなちゃんととても仲良しなので、わたしたちはこのことを自分たちの家族に起こった出来事のように受け止めて、はなちゃん一家のことをとても心配している。
なかでも天は昨晩から、
「朝、はなちゃんに会ったときにどうすればいいのかわからない。」
と悩んでいた。
「いつもどうりにしてあげればいいんだよ。頑張ってね、とか言わなくていいんだよ。たいへんなときには、外に出てくるだけでもすんごい頑張ってるんだからね。たいへんなときにこそ、いつもどおりにやさしくしてあげるのが大事だよ。」
と、わたしはアドバイスした。
「うん。わかった。ぼくは、はなちゃんといつもどおりにポケモンの話しをするよ。」とうなづいた天。
○
朝、通学班の集合場所に、はなちゃんがあらわれない。
天と月と同じ班のほかの子たちとで、はなちゃんの家の玄関まで迎えに行くことになった。しばらくすると、泣きはらした顔のはなちゃんが出てきた。
天はその顔を見ただけでぐっとなっちゃったのか、わたしたちと一緒にエレベーターに乗らず、ひとりで階段を駆け下りていった。
ひとりの女の子が遠慮なく、はなちゃんに聞く。
「はなちゃんのおかあさん、今日、帰ったときにもいないの?」
なにも答えられないはなちゃん。わたしは慌てて、
「はなちゃん、おばちゃんのウチにいつでもおいでね。」
と声をかける。
エレベーターが1階に着く。あきらかに大きなダメージを受けた顔の天と合流。ってか、大きすぎるダメージ?あれ?もしかして。
「天ちゃん!どうしたの?」
「どうもしない。」
「どうもしてなくないでしょ。」
「だいじょうぶ。」
「ねえ、天ちゃん、階段落ちたの?」
とちいさく聞いてみると、
「…落ちた。」
と、ちいさな声。
顎を切ってちょっと血が出てるのに、痛みを我慢してるんだ。
「よし。わかった。天はだいじょうぶ!はい、行ってらっしゃい!」
と、送り出す。
よぼよぼした後ろ姿の天とはなちゃんに、心の中でエールを送る。
特に天!
もう、階段から落ちるなよ…。