天はほとんど恐怖症といえるくらいに「ひとりでいること」が怖い。狭いマンションの中の、ふすまを隔てた隣の部屋にでもひとりでいるのが怖い。わたしと月がお風呂に入っているときに天は、足拭きマットの上に座って待っているくらいの怖がりだ。
それで、いちばん困るのが留守番だ。
「ママがいないときにウチの中に友達を入れない」のは我が家のルールのひとつであるが天に守れたことがない。天はたったの1分だってひとりでいられないんだから。
天は100万回同じことを言われたって、できないことはできないし、できないことがとてもたくさんある。
けれども、天よりふたつ年下の月は、3歳のときからひとりででも短時間なら留守番ができたし、なんでも一回言えば、だいたい覚えていて、ほとんど守ってくれる。なのに、天は、どうして!?というのがわたしの毎度の葛藤だ。
○
今日はまた、わたしは夕方に月と出かける用事があって、天のお留守番の日だった。天のミッションはひとりでウチに帰って来て、約1時間のお留守番だ。「友達と外で遊ぶなら外で遊んでもいいし、友達の家に行くなら行ってもいい。だけど、ウチにお友達を入れないで」っていうのを何度も確認して固く約束して、朝、天は登校して行った。
しかし、天がお留守番の日には雨が降ってることが多いんだな。雨降りの日はひとりでいるのが天にとっては、さらに怖いのもわたしは知っている。心配になって外出先から天に電話してみた。すると、「ごめんなさ〜い。」と謝る天の頼りない声の背後には何人ものお友達の声。
「友達のうちで遊ぶのは、みんな無理って言うし、外は雨が降ってるし。」って!もう!何回も聞いたよ!あああああ〜〜、また、またですか。
いっつも天が連れてくる友達。わたしは基本的に子どもらのの帰宅時間にウチにいるし、子どもは嫌いじゃないし、あまりにも子どもまみれが度重なってわたしがイヤなときでも一応はそれなりに子どもらに礼を持って歓待してるつもりだ。
でも、そうやっていつもウチにいて、天や月のお友達の面倒までいつも見ているママが<ダメ>なときって、一ヶ月に何回もないんだよ。それなのに!どうして、どうして!天は!そのお留守番のたびにも毎度!何人ものお友達をウチに呼ばなきゃならんのだ!!!
何回言ってもパチンコで有り金使い果たしちゃう夫や、あからさまな浮気を繰り返す夫や、ツマや子どもに暴力を奮う夫や、内臓も人間関係もぐちゃぐちゃになってるのにさらに深酒でへべれけになる夫やなんかの、ああ、きっと、そういう依存関係にある、そんな配偶者を持つツマの脱力にかなり近いであろうかと思うほどの失望を感じる。
今度という今度は、帰宅したあとで、天と口をきかなかった。おかしかったのはそのあいだに、月が、天に説教をしていたのだよ。
「おにいちゃん。
よく考えてみて。
ひとりでおうちにいるときにできることはたくさんあるでしょ。
宿題するとか、チャレンジするとか、空手の練習するとか、
あとは、ほら、机の中のお片付けするとか。ね。
おにいちゃんとママが喧嘩してるとね、
あたしもつらいのよ。」
月の言葉に答えずにいじけている天にはさらに腹が立ち、やがてはわたしも参戦して、とことんと追いつめて叱りつけた。でも、天はきっと、また、同じことをする。わたしは何度でも天をゆるすし、今の天はひとりでいるのに耐えられない。
それを含めての依存関係だ。親子が依存するのに、おそらくは限りがない。どこまでもずぶずぶとずるずるするのはわたしだっていくらなんでもごめんだよ。しかし、親のほうから一方的に、子どもに、無理な成長を求めるのは、親の勝手じゃないかとも思う。
子どもそれぞれのそれなりの速度で、きっと成長するのを信じて待つのが、いいのか悪いのか、と、悩みつつ。いくらなんでも子どもは子どもなんだし、あと2、3年もすれば変化は訪れるだろう、と、今夜の結論。