雪が溶けるのも哀しい天は、ある種類の子どもたちにとっては、格好の標的になりうる。
彼が幼稚園生だった頃から長々と続いていた
ダドリー坊ちゃんとの「因縁」は、3年生になってからの担任の先生に介入してもらい解決したのだが、またさらなるニューキャラが登場したのだそうだ。
それは、スポーツできるくせに優しくないSくん、勉強できるくせに性悪なFくん。
そりゃあ、スポーツできる=優しさ、ではないだろうし、勉強できる=人格がよい、ではないだろう。しかし、だからと言って、思い上がったヨソのくそガキにあたしの天ちゃんがどつかれたりわざと足を引っかけられたりの痛い目に遭わされて、「先生に言うなよ」って言われたなんて聞いたら、ほんとに、落ち込むよ。
ああ、こういうのはキリがない。キリがない。キリがない。どうしてそんなことをするアホなくそガキがたくさんいるのだろう。SくんもFくんも顔は知っているし、話しをしたこともあるけれど、まるで話しにならないキャラだ。聞かない、ごまかす、嘘つく、保身する、まるで話しが通じない子どもらなんだ。
わたしたちの人生に、今後もそんな子はいくらでも登場してくるのだろうけれど、そんなひとりひとりに関して、いちいち先生に介入してもらうわけにもいかない。どうしようもない酷いことをする子がいることを教え、そんな子には近づくな、とにかくアホから逃げろ、と教えてきたけど、それでは、しょっちゅう追いかけられている天を目にすることになっていた。
もうこうなったらしようがない。そういうアホにやられたら、こころを込めてやり返せ、と初めて教える。ママの信念はね、「優しさがあれば強くなれる」だよ、天ちゃん。優しい天をいじめる子は、なにかどこかで酷い目に合ってるかわいそうな子どもなんだよ。あいつらは強がってるだけで、実は、強い子でもなんでもない。まるっきしのぴょろぴょろの弱い子だ。でも天は、みんなに大事にされてて、優しくて強い子だ。
上段回し蹴りで返せ!!!と、朝出かける前に空手の練習5分でも。
えいえいえい、と声を出し、体温上げて送り出すこと1週間。
○
「ママ、今日、S'くんがなんでもないのに平手打ちしてきたから、
僕は上段回し蹴りして、しかも、みぞおちに突きを入れた!」と天が言う。
S'くんはこないだの雪の日にS"くんと一緒になって天の顔に雪をぶつけて泣かした子だ。よっしゃ、天、ジョートーだ。
「え?ホントにやっちゃったの?入ったの?それで相手はどうしたの?」と聞いてみる。
「入った。けっこうすっきりした。S'は逃げてった。でもね、今度は昼休みに、4年生の投げた棒が、ぼくの顔に直撃して、痛かったんだよ。」
「それはわざとやられたの?」
「違うよ。」
「そういうときにも、ぶつけられた棒を引っ掴んでブンブン振り回して立ち向かって行ったらどうよ?」と聞いてみる。
「ママ。それじゃあ、僕が不良になっちゃうよぉ。。。」と天。
○
すこしイジメの話しを聞いてみる。
天のクラスには、家庭に、面倒を見てくれる大人がいない子どもがいる。そのため、提出物が出せない、勉強ができない、忘れ物が多い、風呂に入れないので臭う、などと、しばしば笑い者になっているのは知っていた。
最近、その子のことを「キモーイ」という子どもたちがいるとのこと。その子が触ると一斉に「キモーイ」と言うのだそうだ。男子も女子も。
「なにそれ、ひどいね。」
「でしょ。でもね、先生の前ではみんな言わないんだよ。」
「天もキモイって言うの?」
「言うわけないでしょ。」
そう、それが当たり前だよね。そんなこと言うほうがよほど「気持ち悪い」よね。こんなに「豊かな」世の中に、そんな当たり前の感覚を持たない子どもがたくさんいるなんて、なんて気持ち悪いことだろうと思うよ。