月は昨年の夏にも幼稚園の行事で合宿に行っている。そのときに、園の指示で1500円くらいの現金を持たせた。園児達ははじめての合宿で、親から離れて、たのしい思い出をたくさん作り、帰り道にお土産もの屋に皆で寄る。
予算の中で、何をどういうふうに買うかは子どもが決めてよい。ちびちびした子どもらが70人ほど、お店の商品の前で、ちいさなお財布を握りしめて、あれこれと悩む様子を思い浮かべるのは、たのしい。
子ども達は道中のバスのなかでお店でのマナーを教わり、お店で学ぶ。子ども達が自分のお金を自分の判断で使う体験だ。ご協力くださるお店の方やほかのお客さまに感謝する。
月は、夏には自分とおにいちゃんにお揃いのキーホルダーを買ってきて、パパとママに、と、ボールペンを買ってきてくれた。わたしは月はきっと全部全額で、自分のほしいモノを買ってくるだろうと予想していたので、びっくりした。
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今回の冬の合宿の同じ場所に出かけていったのだけど、どういうわけでだか、お小遣いは1000円くらいで、との指示だった。500円の減額だ。月とお泊まりの用意をしていると、天が、夏のと色違いのキーホールダーを月におねだりしていた。
それは、スキー場などでよく見かける着色した毛が張り付けられたちいさな動物型のマスコットだ。オコジョさん、とかいう名前ではなかったかしら。たしかそれが500円以上の値段であることをわたしはなんとなく覚えていた。
「1000円では2つ買えないかもしれないよ。」と月に言う。1000円の買い物とおつり、が月にはまだ、よく理解できない。月は、わたしの説明をわかったようなわからないような神妙な顔で、よく考えて聞いていた。「夏よりも少ないお金なんだから、月の好きなものを好きなように買っておいでよ。」と送りだす。
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翌日の夕方、幼稚園に迎えに行く。去年の夏の合宿のときには、わたしは月がわたしと離れた場所で寝起きすることがさみしくて落ち着かなかったのだけど、今回はずうと落ち着いていた。こうして子ども達はだんだんとわたしから離れていって、わたしのいる家が、帰ってくる場所になる。
月は真っ黒に日焼けした元気な顔でバスから降りてきて、わたしを見つけて、飛びついてくる。まっさきに、おみやげの話し。
「あのね、パパとママと月には、ボールペン買ったの。キレイだよ。一個だけだから、喧嘩しないで、みんなで使うの。それでね。おにいちゃんには。これ買ったのよ。にいちゃん、欲しがってたから。
月ちゃん、ほかに欲しいのがあったの。キティちゃんのお人形があってね。すんごくかわいかったんだよ。どうしようかな、って思ったんだけどねー、あのね、ママ、月ちゃん、自分のほしいのは、我慢したの!」
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帰り道、春の夜空にまるい月。あたたかい、ひろい夜の真ん中に、大きな明るい電燈が灯っているようだった。
サッカー練習から帰宅してきた天に、月がとくいそうにおみやげを渡す。わたしが天に説明する。
「えええっ。月。
自分のほしいのを我慢して、ぼくのおみやげ買ってきてくれたの?」
天ちゃん感激。